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米国輸出管理規制アップデート~AI・先端半導体に関する新たなガイダンスの公表(前編)~

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

NO&T International Trade Legal Update 国際通商・経済安全保障ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2025年5月12日、米国商務省産業安全保障局(the U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry and Security、以下「BIS」といいます。)は、2025年1月15日付の「AI拡散フレームワーク」※1(”Framework for Artificial Intelligence Diffusion”)を撤回したと発表しました。AI拡散フレームワークは、政権交代直前のバイデン政権末期に公表されたものであり、最先端のAI技術が悪意ある主体にアクセスされるのを防ぐことを目的として先端コンピューティング集積回路に関する輸出管理の拡大等を内容とするものでした。しかし、トランプ政権は、AI拡散フレームワークが過度に官僚的であり、米国の外交関係を損ない、また、米国のイノベーションを阻害する可能性があるとして、当該規則を撤回しました。

 他方、BISは、AI拡散フレームワークの撤回に伴い、先端コンピューティング集積回路及びAIモデルの訓練に利用されるその他の品目に関する3つの新たなガイドラインやガイダンスを公表しました。これらの指針は、中国を中心としたAI技術の発展と軍事・諜報活動への懸念が高まる中、米国の国家安全保障を強化するためのBISの継続的な取り組みを反映したものですが、これまでの一貫した規制強化の姿勢とは異なり、EAR違反に対する執行強化の姿勢を示しつつ、企業からの、より厳格かつ自発的なデューデリジェンスを引き出そうとする新たなアプローチを示唆するものとなっている点が注目に値します。なお、将来的にはAI拡散フレームワークに代わる新たな先端コンピューティング集積回路に関する規則の発行が予定されています。

 本ニュースレターでは、企業の皆様が最新の米国輸出管理規制を遵守するための理解を深める一助となるよう、3つの新たなガイダンスのうち、「先端コンピューティング集積回路の不正転用を防止するための産業界向けガイダンス」の主要なポイントをご説明します※2

先端コンピューティング集積回路の不正転用を防止するための産業界向けガイダンス

1. 背景

 2025年5月13日、BISは「先端コンピューティング集積回路の不正転用を防止するための産業界向けガイダンス」※3(”Industry Guidance to Prevent Diversion of Advanced Computing Integrated Circuits”、以下「本ガイダンス」といいます。)を公表しました。本ガイダンスは、2022年10月以降規制強化※4の対象となっている先端コンピューティング集積回路の違法な転用スキームに対する産業界の認識を高めることを目的としています。本ガイダンスでは、先端コンピューティング集積回路には軍事・諜報関連のエンドユース及び大量破壊兵器(WMD)のエンドユースの可能性があるとした上で、実際に中国が先端コンピューティング集積回路やそれを含むシステムを、軍事力の近代化、大量破壊兵器の設計・試験における計算能力の向上、戦場効果の分析等に利用している点が指摘されています。このような危機感を背景として、BISは、中国による中国及びマカオ内外での先端コンピューティング集積回路の不正な取得やデータセンターへのアクセスを阻止するため、2022年10月以降EARに基づく規制を拡大してきました。

2. 新たなレッドフラッグ

 本ガイダンスでは、先端コンピューティング集積回路の不正転用に関わる可能性のある取引や活動を評価する際に役立つ新たなレッドフラッグが示されています。当該レッドフラッグの一例は以下のとおりです。

  • 顧客(国内外問わず)が2022年10月以前に先端コンピューティング集積回路又はそれを含む商品の輸出を受けたことがない場合。
  • 顧客が2022年10月以前に先端コンピューティング集積回路又はそれを含む商品の輸出を受けていたものの、その後輸出量が大幅に増加した場合。
  • 国内外の顧客が住宅用住所のみを提供し、先端コンピューティング集積回路又はそれを含む商品が利用される場所に関する情報を提供しない場合(個人利用において想定される数量と矛盾する場合に限る)。
  • 会社又は送付先の会社がオンライン上での存在がほとんどないか、全くない場合、又は、英語と非英語で会社のウェブサイトの情報に矛盾がある場合。
  • 最終的な配送先又は設置場所が不明な場合。また、顧客の本社や最終親会社の所在地が国別グループD:5(中国を含む)若しくはマカオに所在するか確認できない場合、又は当該所在地に関する情報の開示を拒否したり、不完全な情報を提供したりする場合。
  • 顧客が、BISのエンティティリスト、OFACのSDNリスト又は米国国務省のStatutorily Debarred Parties Listを含む統合スクリーニングリスト※5に記載された当事者と同じ場所に所在している又はその住所が類似している場合。
  • 報告されたエンドユーザーが、所在地にかかわらず、その組織に固有の店舗ではない場合(例:法律事務所、バーチャルオフィス、運送・受領会社等)。
  • 最終荷受人又は荷受人欄に記載された当事者が、大量の先端コンピューティング集積回路(関連するサーバーを含む)を必要とする事業に通常従事していない場合。
  • 顧客の住所が、国別グループD:1、D:4、又はD:5(A:5又はA:6を除く)に指定された仕向地にある場合。すなわち、先端コンピューティング集積回路又はそれを含む商品の輸出ライセンスが必要な仕向地であり、かつ、そのライセンス要件の遵守日を既に過ぎている場合。
  • 先端コンピューティング集積回路又はそれを含む商品が輸出されるデータセンターが、これらの品目を稼働させるためのインフラ(例:電力・エネルギー、冷却能力、サーバーを稼働させるための物理的スペース)を有していることを確認できない、又は確認することができない場合。
  • IaaS(Infrastructure as a Service)を提供する顧客が、自社のサービスの利用者が中国に本社を置いていないことを確認できない、又は確認しない場合(当該顧客が中国・マカオ内外に位置するかどうかに関わらない)。

3. デューデリジェンスに関する指針

 本ガイダンスでは、先端コンピューティング集積回路又はそれを含む商品の輸出又は利用に関して、新規の顧客(特に国別グループA:1以外の仕向地に所在する顧客)に対して、企業が取るべきデューデリジェンスの指針が示されています。当該指針の概要は以下のとおりです。

  • 顧客の設立日を評価する(例:2022年10月以降の設立かどうか)。
  • 顧客の資本構成を評価し、関係者が国別グループD:5(中国を含む)若しくはマカオに本社を置いているか又は最終親会社が本社を置いているかを判断する。
  • 品目のエンドユーザーとエンドユースを評価する(例:顧客の事業内容が注文された品目と一致するかどうか)。
  • 国内外の顧客との取引を開始する前に、潜在的な顧客に対して、自社の品目がEARの対象品目であり、国別グループD:1、D:4、又はD:5(A:5又はA:6を除く)に指定された仕向地への輸出、再輸出、又は国内移転にライセンスが必要であることを通知する。
  • 国内外の顧客との取引を開始する前に、エンドユーザー及び特定の取引におけるエンドユースを含む、想定される全ての取引関係者に関する詳細な情報を含めたエンドユーザー認証を求める。
  • データセンターから、(1)エンドユーザーがその場所で稼働することを許可されていること、及び(2)輸出される先端集積回路を含むサーバーを稼働させるインフラを有していることを証明する書面による宣誓を要求する。なお、サプライヤーがデータセンターにつきオンサイトの訪問を行うか、独立した第三者認証機関を利用して当該宣誓内容を確認することがベストプラクティスである。
  • データセンターが10メガワット以上の先端集積回路を含むサーバーを稼働させるインフラを有しているかを評価する。当該閾値以上のデータセンターは、懸念国に本社を置く関係者のためにAIモデルの訓練に大量の先端コンピューティング集積回路へのアクセスを提供する可能性があり、WMD又は軍事エンドユース・エンドユーザーを支援する可能性があるため、追加の精査が必要である。

4. AIモデルの訓練に適用される可能性のある規制

 本ガイダンスは、AIモデルの訓練のためのEAR対象品目である先端コンピューティング集積回路又はその他の商品へのアクセスは、国別グループD:5(中国を含む)又はマカオにおける軍事・諜報活動及びWMDのエンドユースを可能にする可能性があるとの警鐘をならした上で、そのような先端コンピューティング集積回路又はそれを含む商品にはECCN 3A090.a、4A090.a、及びカテゴリ3、4、5の.z品目(例:ECCN 5A992.zに分類されるサーバー)に該当する品目が含まれるとしています。その上で、以下に該当する活動については、軍事エンドユース向けの製品であること又は軍事エンドユーザー向けであることを知り得た(”knowledge”)場合に該当し、EARパート744のキャッチ・オール規制に基づき、ライセンス要件に該当する可能性があるとされています※6

  • 輸出者、再輸出者、又は国内移転者が、外国のIaaSプロバイダー(例:データセンタープロバイダー)が国別グループD:5(中国を含む)又はマカオに本社を置く関係者のためにAIモデルの訓練を行う目的でEAR対象品目である先端コンピューティング集積回路又はその他の商品を使用することを知っている場合、当該IaaSプロバイダーを含むいかなる当事者に対する当該品目の輸出、再輸出、又は国内移転。
  • IaaSプロバイダー等の当事者が既に保有しているEAR対象品目である先端コンピューティング集積回路又はその他の商品の国内移転について、国内移転者が国別グループD:5(中国を含む)又はマカオに本社を置く関係者のためにAIモデルの訓練に使用することを知っている場合。
  • 米国人によるいかなるサポートの提供、又は契約、サービス若しくは雇用の遂行(当該各活動が国別グループD:5(中国を含む)又はマカオに本社を置く関係者のためのAIモデルの訓練に利用される、又はそれを支援することを知っている場合)。

 上記取引や活動について事前にBISの許可を得ず、結果としてEAR違反があった場合、民事又は刑事罰の対象となる可能性がありますが、米国の国家安全保障及び外交政策に反する行為を行う外国の当事者(国別グループD:5(中国を含む)又はマカオに本社を置く関係者のためにWMD又は軍事・諜報エンドユースを支援する可能性のあるAIモデルの訓練による場合が含まれることとされています。)は、仮にEAR違反がない場合であっても、エンティティリストに追加される可能性がある旨が指摘されています。そのため、通常EARが問題とならないEAR対象外品目を取引する場合であっても、国別グループD:5(中国を含む)又はマカオに本社を置く関係者においてWMD又は軍事・諜報のエンドユースを支援する可能性のあるAIモデルの訓練に利用される可能性がないかという点に十分に留意する必要があります。

5. デューデリジェンスのベストプラクティス

 本ガイダンスにおいて、BISは、以下に掲げる情報を確認することが、規制対象となるエンドユース及びエンドユーザーへの先端コンピューティング集積回路の不正転用を防止するために役立つとしています。なお、既に顧客から一定の認証や証明書を取得している場合、既に実施された当該リスク軽減措置を一から実施し直す必要はないとしつつも、以下の情報について追加で確認を行う価値があるかどうかを検討されることが推奨されているため、既に進行中の取引に関しても、これまで顧客から入手した情報が必要十分なものであるかという観点から追加の検討を行うことが推奨されます。

  • 顧客のフルネーム、住所、連絡先情報、事業内容、ウェブサイトアドレス、及び取引における役割(購入者、中間荷受人、最終荷受人、又はエンドユーザー)。新規顧客の場合はビジネスライセンスの写しを要求する。
  • 顧客が品目に関して意図している活動の特定(顧客による消費・利用、在庫保持(再輸出又は国内移転の可能性を含む)、次の顧客への転売(名称と住所の特定)、IaaSの提供(例:AIモデル訓練の有効化)等)
  • 顧客がエンドユーザーではない場合、既知のエンドユーザーの名称と住所
  • 品目が配送され、設置される住所
  • 顧客の本社又は最終親会社の本社の所在地
  • エンドユーザーが顧客と異なる場合、エンドユーザーの本社又は最終親会社の本社の所在地
  • 取引に関わる品目のリスト(品目に対応するECCNを含む)
  • 顧客がIaaSプロバイダーである場合、国別グループD:5(中国を含む)又はマカオに本社を置く関係者のためにAIモデルの訓練に先端コンピューティング集積回路へのアクセスを提供していないことの宣誓。
  • 顧客がEARを遵守し、EARに基づく要求を顧客及びその後のEAR対象品目の再輸出又は国内移転取引の他の当事者にフローダウンすることの宣誓。
  • 顧客による認証(名称、役職、電話番号、Eメールアドレス、日付、署名を含む)。

 輸出者は、受領したこれらの情報を精査し、当該情報に誤りやレッドフラッグ(例:事業内容が輸出品目と一致しない、電話番号が顧客又はエンドユーザーの所在地と一致しない等)がないか特定が求められます。また、顧客が一つ以上の情報要求に対して宣誓を拒否することは、それ自体がレッドフラッグになり得ると指摘されているため、仮に顧客が上記各情報の提供を拒んだ場合は、より慎重なデューデリジェンスが求められる可能性に留意する必要があります。

脚注一覧

※2
後日発行予定の後編において、”BIS Policy Statement on Controls that May Apply to Advanced Computing Integrated Circuits and Other Commodities Used to Train AI Models”及び”Guidance on Application of General Prohibition 10 (GP10) to People’s Republic of China (PRC) Advanced-Computing Integrated Circuits (ICs)”を解説いたします。

※4
2022年10月7日に公表した暫定最終規則案の詳細は、当事務所発行の米国最新法律情報No.82「米国輸出管理規制アップデート~対中輸出規制の強化~」(2022年11月)を、2023年10月17日に公表した2つの暫定最終規則案の詳細は、当事務所発行の米国最新法律情報No.107/国際通商・経済安全保障ニュースレターNo.13「米国輸出管理規制アップデート~先端コンピューティング及び半導体製造装置関連の輸出管理規制の強化~」(2023年12月)をそれぞれご確認ください。

※6
軍事エンドユース・エンドユーザー規制の詳細は、当事務所発行の米国最新法律情報No.127/国際通商・経済安全保障ニュースレターNo.22「米国輸出管理規制アップデート~エンドユース・エンドユーザー規制の拡大~」(2024年9月)をご確認ください。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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