
三上二郎 Jiro Mikami
パートナー
東京
NO&T Infrastructure, Energy & Environment Legal Update インフラ・エネルギー・環境ニュースレター
ニュースレター
CCSに係る制度的措置のあり方に関する中間取りまとめの公表(2024年2月)
脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案の公表(2024年2月)
水素社会推進法及びCCS事業法の成立(2024年5月)
水素社会推進法に基づく拠点整備支援の概要(2025年4月)
2024年10月23日、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」(以下「水素社会推進法」又は「法」という。)が施行された。本ニュースレターでは、水素社会推進法成立後に、政省令等において新たに定められた事項の概要を紹介する。なお、水素社会推進法の概要については、三上二郎=宮城栄司=渡邉啓久=河相早織「水素社会推進法及びCCS事業法の成立」(本ニュースレター No.36:2024年5月)を参照されたい。
水素社会推進法が普及促進を図る「低炭素水素等」の定義は、「水素等であって、その製造に伴って排出される二酸化炭素の量が一定の値以下であること、二酸化炭素の排出量の算定に関する国際的な決定に照らしてその利用が我が国における二酸化炭素の排出量の削減に寄与すると認められることその他の経済産業省令で定める要件に該当するもの」であり、その要件は経済産業省令に委ねられている(法第2条第1項)。
「水素等」とは法において「水素及びその化合物であって経済産業省令で定めるもの」と定義されており(法第2条第1項)、このうちの水素化合物について、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律施行規則(令和6年経済産業省令第69号)(以下「規則」という。)は、①アンモニア、②水素及び一酸化炭素又は水素及び二酸化炭素から合成した液体(合成燃料)、③水素及び一酸化炭素又は水素及び二酸化炭素から合成したメタン(合成メタン)が含まれるものとした(規則第2条各号)。
低炭素水素等の要件として経済産業省令で定める要件は水素及び水素化合物についてそれぞれ以下のとおりである(規則第3条各項)。水素及びアンモニアについては、その製造過程において排出されるCO2の量が基準となる(Well to Gate)のに対し、合成燃料及び合成メタンについては、製造のみではなく、輸送、貯蔵及び利用に伴い排出されるCO2の量が基準となる点で異なる(サプライチェーン単位)。水素及びアンモニアについては、グレー水素及びグレーアンモニアにおけるCO2排出量の7割減、合成燃料及び合成メタンについては、グレー水素製造部分におけるCO2排出量の7割減に加えて合成や輸送等に係るエネルギー消費を踏まえて基準値を定める考え方※1が維持されている。
炭素集約度の基準値は今後見直しが行われることが予定されているが、法に基づく低炭素水素等供給等事業等計画(以下「事業計画」という。)の認定を受けた場合においては、認定後に規則第3条の改正がなされたとしても、改正前の条件を満たす限り、法第2条第1項の要件を満たす「低炭素水素等」に該当するものとみなされる(規則第3条第6項)。
水素等 | 基準値(炭素集約度) |
合成燃料・合成メタンにおける追加要件 (規則第3条第3項第2号乃至第4号及び第4項第2号) |
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水素 | 3.4kg-CO2e/kg-H2以下※2 | ー |
アンモニア | 0.87kg-CO2e/kg-NH3以下※3 | ー |
合成燃料※4 | 39.9g-CO2e/MJ以下※5 |
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合成メタン | 49.3g-CO2e/MJ以下※6 |
なお、炭素集約度の算定に当たり、非化石証書等の利用は可能であるとされている※7。また、CO2排出量の算定方法は経済産業大臣が定めることとされているが(規則第3条第5項)、判断基準(下記5.参照)第4条に定める方法(国際標準化機構が定める規格で算定)により算定することが基本とされている※8。
水素社会推進法において、主務大臣※9は、低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本方針を策定する(法第3条)とされていたところ、同法の施行に伴い、2024年10月23日付で、低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本的な方針※10が策定された。基本的な方針の概要は以下のとおりである。
2030年 | 2040年 | ||
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供給面 |
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利用面 | 鉄鋼 |
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化学 |
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運輸 |
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発電 |
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価格差支援の対象となる事業(太字下線は必須要件) |
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価格差支援の対象事業の実施方法 |
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拠点整備支援の対象となる事業(太字下線は必須要件) |
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拠点整備支援の対象事業の実施方法(太字下線は必須要件) |
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低炭素水素等を国内製造又は輸入して供給する事業者(以下「供給事業者」という。)や、低炭素水素等を利用する事業者(以下「利用事業者」という。)は、単独又は共同で「事業計画」を作成・提出し、主務大臣の認定を受けることにより、価格差支援及び拠点整備支援に係る助成金の交付を受けられるほか、高圧ガス保安法、港湾法及び道路占用に関し特例の適用を受けることができる。
主務大臣が事業計画を認定するに際しては、申請された事業計画(なお、その記載事項については法第7条第2項乃至第4項を参照)が以下の認定基準の全てに適合する必要がある(法第7条第5項)。認定基準の内容は、大要以下のとおりである(太字部分が規則以下で定められた事項)。
<認定基準>
水素社会推進法上、経済産業大臣は、基本方針に即し、かつ、水素等供給事業者による低炭素水素等の供給の状況、低炭素水素等の供給、貯蔵、輸送及び利用に関する技術水準、低炭素水素等の利用に係る経済性その他の事情を勘案して水素等供給事業者が低炭素水素等の供給を促進するために取り組むべき措置に関し、当該水素等供給事業者の判断の基準となるべき事項を定めることとされた(法第32条)。水素社会推進法の施行にあわせて、2024年10月23日付で、当該判断基準も示されており※15、その詳細は以下のとおりである。
なお、供給事業者のうち、低炭素水素等の供給状況が当該判断基準に照らして著しく不十分である場合に、経済産業大臣の勧告及び命令の対象となる者(特定水素等供給事業者)は、①前年度における水素の供給量が1,000t以上又は②前年度におけるアンモニアの供給量が10万t以上である者とされており、現時点では合成燃料及び合成メタンの供給事業者は対象とされていない(法第34条、政令※16第1項、規則第50条)。
目標の設定 | 政府の目標等を踏まえ、低炭素水素等の供給に関する目標を定め、これを達成するための取組を計画的に行う |
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取組 |
以下の方法等によりCO2排出量を一定の値以下とすることにより低炭素水素等の供給を実施
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状況把握・公表 |
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表示 |
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留意事項 |
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本ニュースレターにおいては、水素社会推進法について概観した。水素社会推進法の施行日と同日付で、JOGMECから価格差支援についての交付要綱が、資源エネルギー庁から価格差支援についてのQ&Aがそれぞれ公表された。その詳細については、稿を改めてお伝えする予定である。
※1
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 水素・アンモニア政策小委員会(第14回)/資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会(第15回)/産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 水素保安小委員会(第6回)合同会議「資料1 水素社会推進法について(事務局資料)」6頁
※2
水素1kg当たりの製造に伴い排出されるCO2(CO2以外の温室効果ガスについては地球温暖化対策の推進に関する法律に従ってCO2排出量相当に換算。以下同じ。)の量(kg)を指す(規則第3条第1項)。なお、製造には「液化」は含まれない(「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律施行規則(案)等に対する意見公募手続の結果について」(2024年10月23日公表)(以下「省令パブコメ」という。)No.10)。
※3
アンモニア1kg当たりの製造に伴い排出されるCO2の量(kg)を指す(規則第3条第2項)。
※4
国内で製造され、国内で利用される合成燃料/合成メタンについては、日本におけるCO2排出量の削減に寄与するため、条件は規定されていない(省令パブコメNo.8)。
※5
合成燃料の熱量1MJ当たりの製造、輸送、貯蔵及び利用に伴い排出されるCO2から、当該合成燃料の原料のために回収されたCO2を控除したCO2の量(g)を指す(規則第3条第3項第1号)。
※6
合成メタンの熱量1MJ当たりの製造、液化、輸送、貯蔵及び利用に伴い排出されるCO2から、当該合成メタンの原料のために回収されたCO2を控除したCO2の量(g)を指す(規則第3条第4項第1号)。
※7
省令パブコメNo.2
※8
省令パブコメNo.5。現時点では、ISO14067及びISO/TS19870等の規格が想定されている。
※9
項目に応じて、経済産業大臣及び国土交通大臣の双方又は経済産業大臣となる(法第42条第1項)。
※10
令和6年経済産業省・国土交通省告示第5号
※11
なお、供給事業者と利用事業者が同一の法人であってもよく、申請書にそれぞれ同一法人名を記載することで共同作成の要件を満たすことができる(省令パブコメNo.17及びNo.18)。
※12
令和6年経済産業省告示第173号
※13
価格差支援については、助成金の交付の対象となる低炭素水素等供給事業が終了した翌日を、拠点整備支援については、助成金を使用して整備した供給等施設を取得した日を、起算日とする(規則第4条)。当該10年間の低炭素水素等の供給計画は、事業計画の認定申請書に記載する必要がある(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律に基づく低炭素水素等供給等事業計画の認定等に関する省令(令和6年経済産業省・国土交通省令第3号)様式1別表1及び2、省令パブコメNo.33)。
※14
10年以上継続的に行われると見込まれることとは、当該期間にわたり供給を継続する実効性が高い計画であることを意味している。また、あくまでも供給事業者による供給継続が対象であり、利用事業者による利用継続を義務付けるものではないが(いずれも省令パブコメNo.85)、生産継続のみでは要件を満たさず、供給継続は必須である(省令パブコメNo.34)。
※15
水素等供給事業者の低炭素水素等の供給の促進に関する判断の基準となるべき事項(令和6年経済産業省告示第174号)
※16
脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律施行令(令和6年政令第314号)
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
三上二郎、宮城栄司、渡邉啓久、河相早織(共著)
(2025年4月)
杉本花織
商事法務 (2025年4月)
長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
宮城栄司
三上二郎、宮城栄司、渡邉啓久、河相早織(共著)
商事法務 (2025年4月)
長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
渡邉啓久、倉知紗也菜(共著)
金融財政事情研究会 (2025年2月)
勝山輝一(編著)、村治能宗、松本岳人(共著)
三上二郎、宮城栄司、渡邉啓久、河相早織(共著)
渡邉啓久、倉知紗也菜(共著)
(2024年11月)
平野倫太郎、吉村浩一郎、村治能宗(共著)
三上二郎、宮城栄司、渡邉啓久、河相早織(共著)
三上二郎、宮城栄司、渡邉啓久、河相早織(共著)
宮城栄司
渡邉啓久、倉知紗也菜(共著)
宮下優一、髙橋優(共著)