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新しいテクノロジーとスポーツビジネス ~web3・メタバース時代の到来~


【音声配信中】
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座談会メンバー

パートナー

殿村 桂司

TMT分野を中心に、M&A、知財関連取引、テクノロジー関連法務、スタートアップ法務、デジタルメディア・エンタテインメント、ゲーム、テレコム、宇宙、個人情報・データ、AI、ガバナンス、ルールメイキングなど企業法務全般に関するアドバイスを提供している。

パートナー

加藤 志郎

ロサンゼルスのスポーツエージェンシーでの勤務経験等を活かし、スポーツエージェント、スポンサーシップその他のスポーツビジネス全般、スポーツ仲裁裁判所(CAS)での代理を含む紛争・不祥事調査等、国内外のスポーツ法務を広く取り扱う。

アソシエイト

小松 諒

コーポレート、不動産、紛争解決(仲裁・訴訟)を中心に企業法務全般を取り扱い、テクノロジー関連法務、スタートアップ法務及びメディア/エンタテインメント・スポーツ関連法務にも幅広い経験を有する。

【はじめに】

近年のテクノロジーの発展は、世界的に成長するスポーツビジネスにも大きな影響を与えています。スポーツは、web3やメタバース等の新時代のテクノロジーと親和性が高く、その活用に大きな注目が集まっています。欧米を中心に既に様々な前衛的な取り組みが進められており、それに伴い、各種契約やサービス利用規約による権利関係の整理、事業スキームや関連規制の分析、その他スポーツビジネスの特殊性も踏まえて検討すべき法的論点が多数存在します。このようなweb3・メタバース時代のスポーツビジネスについて、スポーツ業界の案件に多く携わる弁護士とテクノロジー関連の案件に多く携わる弁護士が議論します。

CHAPTER
01

スポーツビジネスにおけるテクノロジーの活用

殿村

今日は、スポーツ法務を取り扱う加藤弁護士と、テクノロジー法務とスポーツ法務の双方を取り扱う小松弁護士と私で、web3・メタバース時代におけるテクノロジーを活用したスポーツビジネスについて議論したいと思います。
まず、スポーツビジネスにおける、広い意味でのテクノロジーの活用状況について話していきたいと思います。

加藤

「スポーツテック」という言葉が広く使われるようになってきた通り、近年のテクノロジーの発展は、スポーツビジネスにも大きな影響を与えています。
その活用は多岐にわたりますが、例えば、高性能な測定器・カメラやウェアラブル端末を使用してデータを収集し、アスリートのパフォーマンス向上や故障防止、チームの戦術分析等に役立てるなど、競技成績向上の観点での活用は、アスリートやチームの競争力維持・強化のために欠かせないものとなっています。また、サッカーのFIFAワールドカップ・カタール大会の「三笘の1ミリ」で注目されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)のように、競技結果の判定の正確性、いわばスポーツのフェアネス(公平さ)を担保する観点でのテクノロジーの活用も進んでいます。

小松

日本政府は近年、「スポーツの成長産業化」を施策として掲げていますが、その中でも、デジタル技術によりデータの活用を拡大し、それに伴う資金循環システムの強化等も含め、スポーツ活動の変革を推進すること(スポーツDX)が目指されています。文部科学省が2022年3月に発表した「第3期スポーツ基本計画」では、「スポーツ界におけるDXの推進」が、今後5年間に総合的かつ計画的に取り組むべき施策の一つと位置づけられており、また、2022年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」においても、「民間資金やスポーツDXの一層の活用等により、指導者や活動団体の育成を通じて、スポーツの成長産業化やスポーツの発展を図る」ことが明記されています。

殿村

スポーツDXといえば、経産省が2022年12月に公表した「スポーツDXレポート」では、スポーツDXによる主な事業環境の変化として、①視聴方法の変化(配信の拡大)、②データビジネスの広がり(ゲーム市場、スポーツベッティング市場の拡大)、③NFT等のweb3時代の新しいサービスの台頭を挙げていますね。

加藤

それらは主に、ファンの体験価値やファンエンゲージメントを向上する観点でのテクノロジーの活用ですね。ストリーミング視聴、詳細なスタッツの表示、セカンドスクリーンの利用等、スポーツの新たな観戦スタイルを提供するもののほか、トークンやSNS等、観戦に限らず新たなファンエンゲージメントの機会を創出するものもあります。コンテンツが溢れ、競争が激化しているエンターテインメント市場でスポーツビジネスが生き残るために、テクノロジーの活用は極めて重要なピースになっていると思います。

小松

データビジネスに関しては、海外で市場が拡大しているスポーツベッティングにおけるブックメーカーへの公式競技記録の提供等も注目に値します。特に、海外では日本のスポーツも賭けの対象とされ、その競技記録等が無断で使用されているという現状について、日本のリーグやチームがとりうる対策等が議論されています。

加藤

スタジアム・アリーナにおける最新テクノロジーの導入も進んでいます。主にはファン体験やセキュリティの向上を目指すものが多く、欧米の例として、WiFi環境の整備等は当然として、売店販売におけるキャッシュレス決済、飲食物等の無人店舗販売、チケッティングへのNFTの活用、顔認証システムによる入場管理等が挙げられます。


CHAPTER
02

web3とスポーツビジネス

殿村

これまでの議論から分かる通り、スポーツは、様々な観点からデータやテクノロジーの活用が期待され、web3等の新時代のテクノロジーとも非常に親和性が高い分野といえますね。

小松

その通りだと思います。例えば、スポーツビジネスは、web3時代のインフラとなりうるテクノロジーであるNFT(Non-Fungible Token)が持つ希少性等の特徴と相性が良いコンテンツビジネスの代表例でもあります。海外では、NBA Top Shotをはじめ、選手の画像・映像等をNFT化したデジタルコレクティブルが人気であり、公式の二次流通市場を含めて活発な取引がなされています。

殿村

スポーツのデジタルコレクティブルについては、どのような法的問題に留意する必要があるのでしょうか。

加藤

基本的な点として、デジタルコレクティブルの発行者・購入者、選手、チーム・リーグ等の関係者間の権利関係に気を付ける必要があります。
例えば、選手の画像・映像のデジタルコレクティブルを販売する場合、発行者は、選手の肖像・パブリシティ権についてライセンスを受ける必要があります。この選手の肖像・パブリシティ権は本来、選手個人に帰属するものですが、選手契約や大会・リーグのルールなどにおいて、選手以外がライセンス権限を持っていたり、選手がライセンスするためにはチームの承諾を要するなどの制限が課されていたりする場合があります。
また、選手の肖像・パブリシティ権とは別途、画像・映像自体の著作権のライセンスも問題となりますし、チームやリーグのロゴやユニフォームの使用についてのライセンスも別途必要となります。

小松

デジタルコレクティブルの購入者の観点からは、いかなる権利を取得できるのかという点も重要だと思います。購入者は、デジタルコレクティブルの「譲渡」を受け、その「保有者」となった場合でも、選手の肖像・パブリシティ権や画像・映像の著作権を取得するわけではなく、「NFTが表章する画像・映像等のデータを一定の範囲で利用する権利」を取得するのみであると、サービスの利用規約に規定されているケースが多いと思います。

殿村

購入者の観点からは、NFTが表章する画像・映像等のデータも、NFT自体も、無体物であるため法的には所有権の対象とはならないと一般的に考えられている点にも留意が必要ですよね。したがって、契約関係がより重要になってきます。
加藤さん、その他にも留意する事項はあるでしょうか。

加藤

実務上は、デジタルコレクティブルのランダム型販売と賭博罪(刑法185条)との関係性も関心事となっています。海外のデジタルコレクティブルの販売においては、販売されるデジタルコレクティブルがくじ引きのようにランダムに決定される販売方式(いわゆるガチャ)や、一定数のデジタルコレクティブルがランダムに含まれ、購入するまで中身がわからないパッケージを販売する方式が採用されていることも多く、さらに、獲得したデジタルコレクティブルを直ちに転売できる二次流通市場が併設されているサービスが多く存在します。しかし、これと同様のサービスを日本で提供しようとすると、偶然性の高い金銭的な利得又は損失につながるというその射幸性の高さから、賭博罪が成立するのではという問題です。

殿村

「賭博」とは、偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為、と考えられているところ、「得喪を争う行為」といえるか否かが重要なポイントとなりますね。この点は、具体的なサービスの仕組み次第でしょうが、関連する業界団体が2022年に公表したガイドラインでは、NBA Top Shotに類似する一定の類型のサービスであれば賭博罪に該当しないものとして法的な整理が試みられており、日本で同種のサービス展開に取り組みやすい環境作りが目指されているところですね。

小松

NFT以外にも、スポーツビジネスにおけるトークンの活用例として、ファントークンがありますね。

加藤

ファントークンは、チームやクラブが特定のプラットフォームを通じて発行する、ブロックチェーンを活用した代替性のあるトークンです。その保有者には、保有数に応じて、チームやクラブが主催するイベント・投票等に参加する資格や、グッズ等の特典が与えられることが典型的です。その発行によりチームやクラブが資金調達できるという点とともに、その取引・保有を通じた新しいファンエンゲージメントを創出できるという点で注目されています。

殿村

ファントークンについては、どのような法的問題に留意する必要があるのでしょうか。

加藤

ファントークンをめぐる権利関係の整理は重要ですね。プラットフォームの利用規約の内容にもよりますが、プラットフォーム事業者のほか、ファントークンの発行を行うチームやクラブ、当初にファントークンを取得する者、その後にプラットフォーム上でファントークンを売買する者、それぞれの関係者間の法律関係の理解が必要になります。また、ファントークンの保有者が具体的にどのような権利・利益を保証されているのかといった観点も重要だと思います。

小松

現状、ファントークンの保有者に特典として投票権が与えられる対象事項は、例えば、グッズのデザイン、キャッチコピー、入場曲といった、チームやクラブの編成・運営には直接に関わらない、周辺的な事項に限られているようですが、将来的には、トークンを通じたDAOによるチームやクラブの保有・運営もありえますよね。

殿村

その通りです。トークンを通じた投票により、チームやクラブの編成・運営に関わる重要事項を含めてファンが意思決定を行い、チームやクラブの収益の配分を受ける、DAOによるチームやクラブの保有・運営の可能性が検討されています。実際に、海外では、著名なプロスポーツチームやクラブをDAOにより保有・運営することを目指すプロジェクトが既に存在しています。

加藤

一握りのビリオネア・オーナーがチームやクラブの行方を握り、利益を独占するのではなく、その人気を支えるファンこそがチームやクラブを分散的に保有し、貢献に応じて利益を受け取るべきという発想であり、実にweb3時代らしい取り組みですね。


CHAPTER
03

メタバースとスポーツビジネス

殿村

体験価値を中心とするスポーツは、仮想空間においてリアルに近い体験を可能とするメタバースとも親和性がありますね。

加藤

おっしゃる通りです。スポーツに関連したメタバースの活用方法は多岐にわたりうると思いますが、実際に近時のスポーツ業界で取り組まれている事例からすると、典型的には、メタバースで再現された仮想スタジアムをファンがアバターを用いて訪れ、仮想スタジアムを見学したり、友人や他のファンとともに、リアルタイムで現場にいるのと変わらない臨場感で試合を観戦したりと、現実世界でのスタジアム観戦と同等のファン体験を提供するケースが想定されると思います。

小松

そのような活用方法の場合、関連する法的な留意点は多岐にわたりますね。例えば、仮想スタジアムの構築については、再現時の知的財産権等の法律問題が生じると思います。また、構築に際してデータ取得をする際に、現実世界のスタジアムにいるファンとの関係で肖像権や個人情報にも留意が必要となりますね。

加藤

アバターとの関係でも法的な検討が必要でしょうか。

小松

おっしゃる通りですね。ファンによるアバターの使用等については、第三者の肖像権・パブリシティ権の侵害、なりすまし等の法律問題が生じえますし、仮想スタジアム運営者が選手のアバターを製作してファンとの交流を図る場合、チーム・リーグとの間で権利関係の処理を検討する必要があります。

殿村

それらはメタバース一般に共通する法律問題といえそうですね。加えて、スポーツビジネス特有の法律問題についても、メタバースの特殊性を踏まえた検討が必要になりそうですね。

加藤

その通りですね。メタバースでの試合観戦に際しては、現実世界と同様の体験を仮想空間内で実現するために、現実世界と一見して同様の取引等がメタバース内で行われることが想定されます。そのそれぞれの取引等について、現実世界の場合の契約関係や法律問題を参考にしつつも、メタバースの特殊性に留意し、実際に何が取引されているのか、どのような法律関係が生じるのか、個別に整理する必要があると思います。

殿村

例えば、具体的にどのような取引が問題になるのでしょうか。

小松

観戦するファンとの関係だけを見ても、ファンは仮想スタジアム内への入場のためにチケットを購入し、ショップでレプリカユニフォームを購入してアバターに着用させ、さらに観戦の雰囲気を出すための仮想ビールを購入するかもしれません。また、ファンによるスタジアム内での写真・動画の撮影やその利用、迷惑行為等については、仮想スタジアム内においても一定の制限や取締りの対象となるでしょう。
これらの取引等について、例えば、チケットを購入した観客は、現実のスタジアムのような一定の場所に物理的に入場するための権利を取得するのではなく、仮想空間上でそのコンテンツを利用できるというライセンスを付与されることになると考えられます。仮想スタジアム内での写真撮影や禁止行為についても、コンテンツの利用規約という形で制限が設けられることになると思います。利用規約に違反した利用がなされている場合には、ライセンスの停止や剥奪により強制的にコンテンツの利用をやめさせることも考えられますし、そもそも、システム上、それらの禁止行為ができない仕様とすることで解決できるケースもあるでしょう。

加藤

選手との関係では、仮想空間において選手の画像・映像を使用するという点では、デジタルコレクティブルと同様、選手の肖像権・パブリシティ権が問題となりえます。この点、出場したプロスポーツの試合が撮影・放送されることについては、通常、選手は同意していると考えられますし、多くの場合、リーグや大会の規約、チームとの選手契約、イベントの参加契約等においてもその旨が規定されています。ただ、メタバースで試合を再現する場合、現実世界で撮影した映像をそのまま放映するのではなく、再構成・3D化により選手の肖像を利用した全く新たなデータやアバターを生成するなどしてコンテンツ化し、有償で利用させるものだとすると、従来想定されてきた興行の枠組みや肖像権・パブリシティ権の利用方法とは質的に異なるようにも思われます。この点を重視すれば、選手は必ずしも従前の枠組みにおいてそのような肖像権・パブリシティ権の利用許諾を与えていないとの議論もありうるように思います。

小松

その他、ここで個別に議論はしませんが、スポーツビジネスにおける重要なステークホルダーとして、スポンサーやメディアとの法律関係も、メタバースの性質を踏まえて整理する必要があると思います。


CHAPTER
04

おわりに

殿村

今回、議論したものだけを見ても、スポーツビジネスにおけるテクノロジーの活用は、かなり幅広いものであると感じますし、web3やメタバースと親和性が高いことが分かりますね。

小松

そう思います。選手やチーム・リーグによる活用以外にも、スポーツに関わるメディアやスポンサー、スポーツ用品のメーカーなど、それぞれの立場からの活用の可能性があります。そして、元々、スポーツビジネスにおいては多数の法分野の横断的な検討が必要となることが多い中、さらにテクノロジー法務の知見も要することで、総合的なリーガルアドバイスを提供できる当事務所の強みがより活きる領域になっていると思います。

加藤

スポーツの魅力という観点からは、無限の可能性がある先端テクノロジーや、収集された膨大なデータを、具体的にどのように活用して、ファン体験やファンエンゲージメントの向上につなげていくかという点が重要だと思います。そのような取り組みを法的観点からサポートし、スポーツの盛り上がりに貢献できることを非常に嬉しく感じていますので、新しいテクノロジーの活用やサービスの開発のブレインストーミング段階からでも、お気軽にご相談いただけるとありがたいですね。

本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。

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