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新しいテクノロジーと不動産事業 ~web3・メタバース時代の到来~


座談会メンバー

パートナー

洞口 信一郎

国内外の不動産開発や不動産ファイナンス、J-REIT及び私募ファンドの組成・運営、不動産証券化、不動産テック企業等のM&Aなど不動産関連案件を中心に、国内外のクライアントにアドバイスを提供している。

パートナー

殿村 桂司

TMT分野を中心に、M&A、知財関連取引、テクノロジー関連法務、スタートアップ法務、デジタルメディア・エンタテインメント、ゲーム、テレコム、宇宙、個人情報・データ、AI、ガバナンス、ルールメイキングなど企業法務全般に関するアドバイスを提供している。

パートナー

糸川 貴視

J-REITを含む様々な発行体による有価証券の発行、買収ファイナンス、証券化、ストラクチャードファイナンス等のファイナンス取引及び関連するファイナンス規制を中心に取り扱う。また、不動産取引、M&Aを含む企業法務全般にわたり助言を行う。

アソシエイト

小松 諒

コーポレート、不動産、紛争解決(仲裁・訴訟)を中心に企業法務全般を取り扱い、テクノロジー関連法務、スタートアップ法務及びメディア/エンタテインメント・スポーツ関連法務にも幅広い経験を有する。

【はじめに】

近年のテクノロジーの発展に伴い、不動産事業において新しいテクノロジーが活用される場面が増えています。加えて、「web3」と呼ばれる新しいインターネット社会や近年注目が集まる「メタバース」が浸透する社会に向け、不動産事業において従来とは異なる革新的な変化も生じています。このようなweb3・メタバース時代の不動産事業について、不動産関連の案件に多く携わる弁護士とテクノロジー関連の案件に多く携わる弁護士が議論します。

CHAPTER
01

不動産事業におけるテクノロジーの活用

殿村

今日は、不動産法務を取り扱う洞口弁護士、不動産ファイナンス法務を取り扱う糸川弁護士と、テクノロジー法務を取り扱う私、テクノロジー法務と不動産法務の双方を取り扱う小松弁護士で集まり、web3・メタバース時代におけるテクノロジーを活用した不動産事業について議論したいと思います。
web3・メタバースの話に入る前に、不動産分野においては、テクノロジーの活用はどのように進んでいるのでしょうか。

洞口

不動産分野は伝統的に書面・対面が求められることの多かった分野ですが、宅建業法の改正により、従来は対面で行うことが求められていた重要事項説明をオンラインで行ういわゆるIT重説が導入されたり、書面での契約書交付が求められていたものの電子化が認められたりするなど、不動産取引へのテクノロジーの浸透が進んでいます。
法改正によるテクノロジーの導入に加え、不動産事業におけるDXを更に推進するための取組みも行われています。例えば、国土交通省は昨年3月に不動産IDルールガイドラインを公表しました。この不動産IDは、政府主導でデータベースを構築するような類の取組みではなく、不動産事業においてDXが進む中で、既存の制度を維持しつつ官民を問わず不動産やその関連情報を扱う方々が共通して用いることができるIDを不動産に付与する試みです※1。さらに2023年1月には、法務省が全国の登記所備付地図の電子データ、いわゆる地図データを無償で一般公開することを開始しました。これにより、生活関連・公共サービス関連情報との連携や、都市計画・まちづくり、災害対応などの様々な分野で、地図データがオープンデータとして広く利用され、新たな経済効果や社会生活への好影響をもたらすことが期待されています。これらの不動産DXの取組みは、活用方法によっては様々なメリットが生まれることが期待され、新しい不動産事業のインフラになり得るものと言えるかと思います。
スマートフォンがあれば不動産取引が完結できる、そのような時代に向けた基盤整備が進んでいる状況にあると思います。

糸川

不動産取引におけるテクノロジーの活用に加え、都市機能へのテクノロジーの活用も進んでいますよね。Society 5.0やデジタル田園都市国家構想総合戦略の先行的な実現の場とされる、スマートシティがその例と言えるかと思います。SDGsの目標の一つである「住み続けられるまちづくりを」の内容として「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」ことが掲げられており、スマートシティの取り組みはSDGsとの関係でも注目されていますよね。

洞口

スマートシティでは、AI・IoTを活用し都市機能やサービスの効率化・高度化が図られ、また膨大なデータをAIが解析しその結果をフィードバックすることで産業・社会に新たな価値がもたらされることが期待されています。
AIやデータの活用は、これまでの伝統的な不動産事業ではあまり見られなかった取組みですが、スマートシティの例のように、近年は不動産事業には様々な先端テクノロジーの活用が進んでいます。当事務所も、そのような取組みに関し多くのご相談を頂いています。

小松

AI・データの利活用に関しては、殿村さんは、経済産業省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」策定にも携わっていらっしゃいましたよね。

殿村

はい、AI・データ契約ガイドライン検討会作業部会のメンバーとして作成に関与しました。スマートシティの開発・運営に関するプロジェクトは、個人情報を含むデータをどのように収集して、それを如何に活用していくかがポイントになり、また、伝統的な不動産事業では提供されてこなかったようなサービスを提供することになります。不動産事業への理解とテクノロジー法務への理解の双方が求められるため、より良いアドバイスのために不動産を専門とする弁護士とテクノロジーを専門とする弁護士が協同することが非常に重要だと思っています。
都市との関係でAI・データを活用する観点では、センサー等を通じて取得した現実世界のデータを基に、サイバー空間上に現実環境を「双子(ツイン)」のように再現する「デジタルツイン」の取組みも進んでいます。

小松

都市のデジタルツインに向けては、国土交通省や東京都といった国・地方自治体レベルでの取り組みも非常に活発化していますよね。主にデータ取得・デジタルツイン構築の場面での法的問題が議論されており、今後の動向が注目されます。
CHAPTER
02

web3と不動産事業~ブロックチェーン技術の活用~

洞口

従来からの不動産事業にテクノロジーを活用する動きが生じていることに加え、「web3」と呼ばれる新しい社会への潮流から生じる変化も起きているように思います。殿村さんはデジタル庁の「Web3.0研究会」のメンバーでもありましたが、web3とはどのような内容を指すのでしょうか。

殿村

「web3」という概念について明確な定義があるわけではありませんが、Web2.0と呼ばれるプラットフォーム事業者にデータや権限が集中している中央集権体制的なインターネット社会への一種のアンチテーゼとして、ブロックチェーン技術によりデータを分散管理することで個人が主体的にデータ管理を行うことができる非中央集権的な、次世代の分散型インターネット社会を指す用語として使われています。実際にどこまで分散化しているかについては議論があるところですが、ブロックチェーン技術が根幹になっています。
ブロックチェーン技術は様々な領域で活用が進んでいますが、不動産分野においてはどのようなものがあるでしょうか。

糸川

ブロックチェーン技術を用いた不動産取引としては、不動産セキュリティ・トークンを用いた不動産の証券化・流動化が挙げられるかと思います。セキュリティ・トークンは、トークンのうち有価証券性を持つものを指しますが、不動産を裏付けとするものを不動産セキュリティ・トークンと呼びます。従来の不動産小口化商品とは異なり、セキュリティ・トークンという仕組みを用いることで、流動性向上という差別化が期待されているところです。セキュリティ・トークンを用いた資金調達はセキュリティ・トークン・オファリング(STO)と呼ばれています※2

洞口

不動産STO案件では、どのような点が法的に問題となっているのでしょうか。

糸川

セキュリティ・トークンは裏付けとなる権利がトークン化されたものにすぎないため、セキュリティ・トークンの発生要件、譲渡の有効要件や対抗要件は、裏付けとなる権利の私法上の取扱いによることとなります。言い換えると、選択するスキームによって権利移転や対抗要件の方法が異なるため、スキーム選択が重要になります。現在、公募型不動産STO案件においてトークン化される私法上の権利としては、権利移転と対抗要件具備を極力タイムラグがない形で行うべく、主に受益証券発行信託の信託受益権が用いられていますが、改正産業競争力強化法において創設された債権譲渡等における第三者対抗要件の具備に関する特例を活用した実証実験が行われるなど、活用スキームの検討が進められています。もっとも、差押などを含め、ブロックチェーン外での権利移転が試みられた場合にすべからく無効といえるのか(排他性の確保)については、引き続き問題となります。

殿村

加速化する技術の発展に、法制度・法解釈がどのように追いついていくか、難しく、興味深い問題ですね。制度設計にあたっては、法制度の側面からだけでなく、技術的な側面から解消できる問題もありそうですね。

糸川

そうですね、技術が確立すれば、匿名組合出資持分等の権利の移転で問題となっていた確定日付のある証書の取得を行うことなくプラットフォーム内でデジタルに管理することが可能となるように思います。

小松

先ほどのお話で、セキュリティ・トークンは有価証券性があるということは、金融商品取引法上の有価証券にも該当するのでしょうか。

糸川

おっしゃるとおりです。匿名組合出資持分のように従来は2項有価証券と取り扱われていたものであっても、トークン化されることにより原則的には1項有価証券と分類されるのが通常となります。そうなると証券会社による取扱いが必要となるため、注意が必要ですね。このように、不動産セキュリティ・トークンは、金融商品取引法を中心とした規制によって投資家の保護が図られています。
なお、不動産セキュリティ・トークンについては、流通市場の整備と制度的な課題の検討も引き続き進むと思われます。具体的には、投資家への情報提供の方法、価格形成、決済期間の短縮化、ステーブルコインを含むデジタル通貨等との連携など取引・決済事務の効率化など、様々な面での議論が深化することが期待されています。

殿村

トークンとしてはNFT(Non-Fungible Token)の活用が様々な分野で注目されていますが、不動産分野でのNFTの活用事例も増えていますよね。例えば、デジタルアートをNFT化したアートNFTが広く認知されるようになってきていますが、不動産のNFT化というのも進んでいますね。NFT化と一口に言っても、NFT保有者が、NFTと紐付いている資産についてどのような権利を有するかはケースバイケースで、それによって適用される法規制も変わってきます。例えば、不動産の所有権を小口化したNFTを取引対象とするものや、不動産の利用権のみをNFT保有者に与えるメンバーシップのようなものなどがあります。不動産を小口化したNFTに関しては、先ほどのセキュリティ・トークンでの議論が応用できる場面が多いように思います。

糸川

そういったNFTが表章する権利が金融商品取引法上の有価証券に該当するか、あるいは、不動産特定共同事業法に基づくいわゆる不特法スキームになっていないかなど、ストラクチャー上の注意が必要だと思います。

小松

不動産のNFT化という場合、メタバース上の土地をNFTにより取引することを指すこともあるかと思います。メタバース上の土地は、あくまでデジタルなデータであって法制度が想定する「不動産」ではないため、権利関係は専らメタバースやNFTの規約によるところが大きいと言えるかと思います。

洞口

ブロックチェーン技術は急速に活用が進んでいますので、我々弁護士も技術や活用事例への理解を深める必要がありますね。
CHAPTER
03

web3と不動産事業~DAOの活用~

洞口

web3においては「DAO」も重要なキーワードになっていますね。そもそもDAOとはどういうものなのでしょうか。

殿村

DAOは、「Decentralized Autonomous Organization」の略で、「分散型自律組織」等と呼ばれています※3。ブロックチェーン技術やスマートコントラクト等を活用し、中央集権的な管理機構を持たず、参加者による自律的な運営を目指す組織形態とされ、新しいガバナンスの在り方を提示するものとして期待が寄せられています。私が構成員として参加していた、デジタル庁の「Web3.0研究会」の報告書※4においても、web3の未来像における重要な課題の1つとしてDAOが挙げられています。
代表的なDAOの実例として、暗号資産であるビットコインやイーサリアムが挙げられます。日本では、地域創生、映画・アニメ等の制作、スポーツ組織の運営などといった幅広い分野での活用が期待されており、実際にプロジェクトとしても動いています。

糸川

私はスポーツ法務も取り扱っているのですが、スポーツ分野でもファントークンと呼ばれるブロックチェーンを用いた新しいファンエンゲージメントが進んでおり、これも広い意味でDAOの一つと言えますよね。

洞口

国土交通省の「『ひと』と『くらし』の未来研究会 Season 3」においても、「Web3.0と不動産業・不動産管理業」というテーマの回において、区分所有者の合意形成にアプリを活用する事例や運営方法や予算の使い方をNFT保有者が中心となって決めるシェアハウスの事例などが紹介されており、DAOの活用が検討されていましたね。

殿村

DAOは、トークンを通じて多くのステークホルダーを組織運営に取り込み、組織運営の方法やインセンティブ構造を工夫することによりステークホルダーのコミットメントを高めることができる可能性があるものなので、分野の制限はなく、不動産事業を含め様々な場面で活用される可能性を持つものなのだと思います。既存の組織形態では上手く対応できなかったような課題の解決に適用できるとよいですね。

小松

DAOは新しい組織形態と呼ばれますが、日本法においてどのような位置づけの組織なのでしょうか。

殿村

日本にはDAOの法的位置づけを規律する法律はないので、既存の法律の枠組みにおける組織形態への該当性を検討することになります。一口にDAOと言っても、その内実は様々なものがありますので、そのDAOごとにどのような仕組み・性質を持ち、どのような組織として位置づけられるのかを確認する必要があります。また、前半のセキュリティ・トークンやNFTの議論とも関係しますが、DAOが発行するトークンの法的性質も問題となります。

糸川

「日本では」とおっしゃいましたが、海外ではDAOに関する法律があるのでしょうか。

殿村

海外に目を向けると、アメリカのワイオミング州が代表的ですが、DAOを規律する法律を制定して、その位置づけを明確化させる試みもあります※5。日本でも、DAOに関する立法化の議論も進んでいますので、今後の議論の動向も注視する必要がありますね。

洞口

新しい技術を用いたトレンドですので、海外の動向を含めて注視する必要がありますね。NO&T当事務所は海外にも各所に拠点があり、また連携可能な法律事務所も多いので、そのようなネットワーク活かして対応していくことができますね。
CHAPTER
04

メタバースと不動産事業

洞口

先ほどブロックチェーンとの関係でも話題になりましたが、トレンドという観点では、近年話題になることが多いメタバースとの関係でも不動産が語られることがありますね。メタバース上の土地に投資するファンドの設立がニュースになるなど、不動産との関連でも話題を目にする機会が多くなっている印象です。

殿村

小松さんと私は、メタバース・XRにまつわる法的問題・課題の検討に注力しています※6。メタバースとの関係では、メタバース上の土地・建物という観点と、現実世界の不動産上で展開していたビジネスをメタバース上で展開するという観点の、2つ観点で不動産事業との接点があると思っています。小松さん、少し整理していただけますか。

小松

先ほどのとおり、メタバース上の「土地」は、あくまでサイバー空間におけるデジタルなものなので、法制度上の「不動産」ではありません。そのため、メタバース上の土地の取引に不動産関連法制が適用されるものではなく、デジタルなデータの取引が行われていることとなります。
そうは言うものの、機能の面ではメタバースという世界における不動産の役割を果たすものですので、現実の土地と同様の問題が生じる場面もあるのだと思います。例えば、特定のエリアでは建物の高さや色の統一感を図ろうとしたり、子供が多く参加しているエリアにおいて風俗営業を制限したりするなど、コミュニティのルール形成が必要になる場面では、従来の不動産事業に関連していた法制度や慣行が参考になることは多いのではないかと思います。

糸川

メタバース上での事業展開という観点では、現実のショッピングモールと同じ外観でメタバース上にショッピングモールを作ったり、スポーツのスタジアムを再現したり、現実世界の事業活動をメタバース上に移行させ事業拡大する試みも多く見られますよね。法律問題としてはどのような点に気をつけるのでしょうか。

小松

メタバース上の建物はあくまでデジタルなデータという無体物ですので、メタバース空間の構築にあたって現実世界の同一の建物の権利を侵害しないかという観点では、知的財産権の問題を主に検討することとなります※7。実在する建物をメタバース上に構築する場合、著作権、商標権、意匠権といった権利との関係が問題になりますが、都市景観を構成するビルや住宅等の建築物の多くは「建築の著作物」の保護を受けないものと考えられます。建築の著作物は、建築による複製と屋外の場所に恒常的に設置するための複製を制限するものですので、仮に建築の著作物に該当すると判断されるものであっても、美術の著作物に該当するような創作性の高いものでない限りは、メタバース上の再現行為は侵害とならないものと考えられます。ただし、屋外広告物等の美術の著作物に該当するものも併せて再現する場合、侵害の可能性が生じるため、権利制限規定の検討も必要になります。

殿村

商標権は、現状はメタバース上で使用されることを想定して指定商品・指定役務の範囲の設定がなされているケースは少ないと思うので、メタバース上に建物を再現する行為により商標権が侵害されると判断される場面は少ないように思います。また、意匠権は、保護対象が建築物や内装のデザインにも拡大されましたが、メタバース上に建築物を再現することは現実世界の建築物の使用態様とは異なる面があるため、意匠権侵害が成立するケースも限定的である印象です。その他にも、不正競争防止法上の商品等表示に該当するかといった点も問題となります。
なお、知的財産権の問題については、政府の「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議」において法的課題の整理と官民一体となったルール整備の必要性等に関する検討が行われており、また不正競争防止法については法改正が検討されていますので、最新の動向に注意が必要です。

洞口

事業活動の中身を検討するにあたり、メタバース上において事業展開することで、現実の事業とは異なる留意点も出てくるでしょうか。

小松

先ほど例にあったメタバース上のショッピングモールで考えてみると、事業者側が取得可能なユーザーの情報に大きな変化があると思います。まず、現実世界で取得される情報は購入した店舗、商品と購入日時くらいであったものが、メタバース上ではアバターの移動経路も全て把握でき取得可能な情報は拡大します。加えて、VRゴーグル等の機器を用いる場合、ユーザーの視線情報や挙動情報も加わります。そのため個人情報の管理が重要になるのはもちろん、これら膨大な情報を分析するにあたってはプロファイリングの問題も顕在化しやすいので注意が必要になりますね。
また、メタバース上のショッピングモールを利用するのは日本人に限らず、全世界の人々を対象とすることも可能になります。その場合、各国のデータ・プライバシー法制にも留意が必要となります。

殿村

そもそもどこの国の法律が適用されるかも問題になりますしね。
業法との関係にも注意が必要です。例えば、メタバース上でアバターが来店可能な飲食店を営んでも、実際に本物の飲食物を提供するわけではないので営業許可の許認可は必要ありませんが、アバターを介して操作しているユーザーの健康状態を聞き診断を行う場合は、内容によっては医行為に該当し、医師法等の規制を受ける可能性があります。メタバースだからといって、一概に現実世界の業法と無縁となるわけではない点には留意が必要です。

洞口

従来の不動産法務の知見に加え、知的財産権や個人情報に関する知見や各種業法との関係もあり、まさに現実世界と同様に法律問題が多様化・複雑化する領域ですね。様々な分野を専門とする弁護士が協同して取り組むことが、メタバースでの事業をサポートするには必要になりますね。
CHAPTER
05

おわりに

洞口

本日は不動産事業における様々なテクノロジーの活用について議論してきましたが、活用場面は多岐にわたることがこの短い時間でも感じられましたね。

殿村

そう思います。不動産事業は、不動産自体の取引に加え、不動産に関するサービス提供の幅の広さを考えると、テクノロジーの活用場面は極めて広範だと思います。用いられるテクノロジーも、オンライン化・電子化のようなものからAI・IoTの活用、さらにはブロックチェーン技術の活用やビジネスのメタバース空間への移行など、最新のテクノロジーを柔軟に取り込みつつ、時代に即した進化を遂げている分野であるという印象です。

洞口

そのようなテクノロジーを活用した不動産事業を検討するにあたっては、不動産法務の知見とテクノロジー法務の知見の双方からの検討が有益になりますね。本日このような形で議論してきたように、不動産法務に高い専門性を持つ弁護士とテクノロジー法務に高い専門性を持つ弁護士のいずれもいることが当事務所の強みですので、また定期的に議論を行い新しい時代の不動産事業をサポートできるよう取り組んでいきたいと思います。

脚注

※1
不動産IDルールガイドラインの概要については、NO&T Client Alert「不動産IDルールガイドラインの公表」(2022年4月13日号)もご参照ください。

※2
不動産STOについては、不動産ニュースレター No.1/FinTechニュースレター No.5/キャピタルマーケットニュースレター No.13「不動産セキュリティ・トークン・オファリング(STO)の現状における実務的課題」(2022年6月)及び山中淳二=糸川貴視「不動産セキュリティ・トークン・オファリング(STO)の現状と今後の課題」金融法務事情2193号13頁(2022年)もご参照ください。

※3
DAOの概要については、テクノロジー法ニュースレター No.18「<NFT/Web3 Update> 自律分散型組織(DAO) ―その概要、近時の世界的動向と法的課題―」(2022年4月)もご参照ください。

※5
ワイオミング州DAO法の概要については、テクノロジー法ニュースレター No.19/米国最新法律情報 No.75「<NFT/Web3 Update> ワイオミング州DAO法の概要」(2022年5月)もご参照ください。

※6
メタバース・XRについては、テクノロジー法ニュースレター No.15「<XR/メタバース Update> 仮想空間・XRビジネスを巡る法的課題―分析・検討の視点と近時の動向―」(2022年4月)及び座談会録「メタバース・XR×法務 ~近時の動向とNO&Tの取り組み~」(2022年11月)もご参照ください。

※7
メタバース空間の構築については、テクノロジー法ニュースレター~ No.26「<XR/メタバース Update> メタバース空間の構築における法的課題」(2022年10月)もご参照ください。

本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。