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新しいテクノロジーと地方創生・観光産業 ~web3・メタバース時代の到来~


【音声配信中】
プレイリストで聴取もできます。

座談会メンバー

パートナー

殿村 桂司

TMT分野を中心に、M&A、知財関連取引、テクノロジー関連法務、スタートアップ法務、デジタルメディア・エンタテインメント、ゲーム、テレコム、宇宙、個人情報・データ、AI、ガバナンス、ルールメイキングなど企業法務全般に関するアドバイスを提供している。

アソシエイト

小松 諒

コーポレート、不動産、紛争解決(仲裁・訴訟)を中心に企業法務全般を取り扱い、テクノロジー関連法務、スタートアップ法務及びメディア/エンタテインメント・スポーツ関連法務にも幅広い経験を有する。

アソシエイト

小泉 遼平

FinTechサービスやweb3サービスの金融規制に係る相談、金融ライセンスの取得手続、規制当局への対応などの金融規制に関するアドバイスを中心に、国内外のクライアントに対し企業法務全般に関するアドバイスを提供している。

アソシエイト

清水 音輝

パブリックブロックチェーン及びスマートコントラクトに関する法的アドバイスを中心に、国内外のクライアントに対し企業法務全般に関するアドバイスを提供している。

【はじめに】

近年のテクノロジーの発展は、地方創生・観光産業の分野にも変化をもたらしています。web3やメタバースといった新時代のテクノロジーについても、地方創生・観光産業に活用しようとする取組みが既に始まっており、今後更なる新しい取組みが進められることが期待されています。もっとも、このような取組みについては、検討すべき様々な法的論点が存在することに留意が必要です。今回は、web3・メタバース時代の地方創生・観光産業について、テクノロジー領域の法務に多く携わる弁護士が議論します。

CHAPTER
01

地方創生・観光産業におけるテクノロジーの活用

殿村

今回は、テクノロジー法務を取り扱う小松弁護士、小泉弁護士、清水弁護士と私で、web3・メタバース時代におけるテクノロジーを活用した地方創生及び観光産業の分野の様々な取組みについて議論したいと思います。観光産業は、日本経済全体にとっても重要な分野ですが、地方創生の切り札としての側面もあり、地方創生と関係が深い分野であると思います。
近年のテクノロジーの発展により、様々な分野でテクノロジーの活用が進められていますが、地方創生・観光産業においても、今やテクノロジーの活用が欠かせない要素になりつつあります。どのような形で、地方創生及び観光産業においてテクノロジーの活用が進んでいるのでしょうか。

小泉

テクノロジーを活用した地方創生の方法としては、例えば「デジタル地域通貨」が挙げられます。デジタル地域通貨とは、スマートフォンアプリなどを利用して、特定の地域内の店舗等で商品やサービスの購入のために使用できるデジタル決済手段です。エリア限定で利用できる電子マネーのようなものをイメージすると分かりやすいですね。

清水

このようなデジタル地域通貨を発行することで、決済の効率化とともに、地域の経済の活性化が期待できます。ポイント付与やキャッシュバック、デジタル地域通貨でのみ購入できる商品やサービスを用意するといった利用者への特典により需要を高め、既に地域内での高いシェアの獲得に成功しているデジタル地域通貨も存在するようです。

小泉

デジタル地域通貨であれば地域外の人たちに対して発行することも容易なので、観光地において利用できるデジタル地域通貨を発行すれば、観光客の誘致手段として利用することも可能ですね。その意味においては、地方創生だけではなく観光産業とも相性が良さそうです。

殿村

観光産業という観点では他にどのような取組みがあるでしょうか。

小泉

観光産業の文脈では、近年観光庁により観光分野のDXの推進が行われていますね。2023年3月には観光庁から、「観光DX推進のあり方に関する検討会」での議論を踏まえた最終取りまとめが公表されています※1。この中では、観光DXの推進が、低生産性や担い手不足の深刻化といった観光分野の課題の解決に資するものとされ、①旅行者の利便性向上・周遊促進、②観光産業の生産性向上、③観光地経営の高度化、④観光デジタル人材の育成・活用の4つの柱が掲げられています。

殿村

宿泊施設のコンシェルジュや観光案内にAIの技術を活用する、顔認証技術などの最新技術を利用して旅行先での決済を効率化するなど、観光分野におけるDXを実現する方法としては様々なものがありそうですね。

小松

MaaSをはじめとする、スマートシティの取組みも、テクノロジーを活用した地方創生・観光産業の一環といえそうです。自動運転分野では、ごく最近、レベル4の自動運転移動サービスの提供が開始されました。地方の人口減少による移動事業の採算性の悪化から交通事業の撤退が見られる中、これらの交通分野における新たなテクノロジーには非常に注目が集まります。
また、2025年の大阪万博に向けては、空飛ぶクルマの取組みが加速しています。ドローンを含む新たな移動サービスは、新たな人流・物流を生み、地域の活性化にも繋がるものとして期待されますね。


CHAPTER
02

web3と地方創生・観光産業

殿村

web3のテクノロジーは、地方創生・観光産業においてどのように利用されているでしょうか。

小松

まず、NFT(Non-Fungible Token)を活用するサービスに注目が集まっています。NFTは、発行方法を工夫することにより価値を持たせることが可能であるという特性を有しており、このようなNFTの特性に着目して地元の特産物のPRや観光客誘致に利用したサービスが登場しています。例えば、観光地を訪問した人だけが入手できるNFTを発行するサービス、海産物や果物などの特産品を紐付けたNFTを数量限定で販売するサービスなどが実際に展開されていますが、こうしたサービスはまさにNFTの特性を利用したサービスであるといえますね。

殿村

今後もNFTを地方創生・観光産業に利用した取組みは増えていきそうですね。NFTの発行にあたって、留意すべき法的問題はあるでしょうか。

清水

金融規制との関係では、NFTが資金決済法上の「暗号資産」に該当しないかという点がしばしば問題となります。暗号資産の売買や交換、これらの媒介などを業として行う場合、資金決済法による規制の対象となるため、発行されるNFTが暗号資産に該当しないかという点は、NFTの発行や取扱いを行う事業者にとっては重要なポイントとなります。
金融庁からは2023年3月に、改正事務ガイドラインとパブリックコメントに対する回答を通じて、暗号資産該当性に関する一定程度具体的な判断基準が示されています。この基準は画一的なものではないので最終的には個別具体的な判断が必要となりますが、今後NFTの暗号資産該当性を判断するための非常に重要な基準となると考えられます。

殿村

また、地方創生の文脈では、山古志DAOなど、DAOの活用も注目されていますね。

清水

はい、NFT等のトークンの発行により資金を集め、集めた資金を地方創生に活用することを目的とする「地方創生DAO」が登場しています。DAOとはDecentralized Autonomous Organizationの略称であり、自律分散型組織と呼ばれるもののことですね。DAOは、トークンを保有するメンバーの投票によって意思決定が行われる場合があるという点が特徴ですが、地方創生DAOにおいても、集めた資金を用いてどのようなイベントや取組みを行い、地方創生に繋げていくかといった点に関する意思決定につき、トークンの保有者全員が関与できることがあります。ある地域の活性化を目的にしたDAOは、地域の内外を結びつける役割を果たすことが期待されており、注目されています。

殿村

地方創生DAOについては、どのような法的問題に留意する必要があるでしょうか。

小泉

まずDAOそれ自体については、日本法における法的な位置づけが明確でないことが課題として挙げられます。対外的な活動においてどのような位置づけとなるのか、またDAO内部の権利関係がどのようになるのか、例えばDAO構成員は有限責任なのか等、法的な位置づけが明確でないことから不明確な点が残ることが懸念事項として挙げられています。

殿村

ありがとうございます。DAOについては、私もメンバーとして関与させて頂いている自由民主党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチームでは、昨年3月に公表した「NFTホワイトペーパー」や今年4月に公表した「web3ホワイトペーパー ~誰もがデジタル資産を利活用する時代へ~」において、LLC型DAO(合同会社ベースのDAO)に関する特別法の制定を提言しており、実際に法整備の議論も行っているところです。
今お話しいただいた内容に加え、地方創生DAOにおける更なる検討事項はあるでしょうか。

小泉

先ほどお話に上がった、資金決済法上の「暗号資産」に該当しないかという点は、地方創生DAOにおいて発行されるトークンについても問題となり得ます。また、DAOのプロジェクトの収益をトークンの保有者に配当する仕組みを作る場合には、トークンの発行や販売などにつき金融商品取引法により規制がかけられる可能性があるため、注意が必要です。

殿村

地方創生におけるweb3の活用は、web3ホワイトペーパーでも言及されており、今後の発展が楽しみですね。

清水

このホワイトペーパーでも指摘されているように、デジタル空間でコミュニティを形成し、参加メンバーがプロジェクトの活性化に貢献するweb3の特徴は、地域外の人やリソースを集めやすいという観点からも地方創生と相性が良いと思います。自治体と関係府省庁との対話の場として、「デジタル改革共創プラットフォーム」上に、「Web3.0 情報共有プラットフォーム」が開設されており、今後はこのプラットフォームを通じた知見の共有も期待されますね。

小泉

他方、このホワイトペーパーにおいては、自治体に関連する法令や制度が自治体によるweb3プロジェクトの推進を想定していないことが課題であると指摘されていますね。特に地方創生・観光産業とweb3を組み合わせる際には、自治体によるweb3プロジェクトの推進が強く期待されるところですが、その場合には、例えば自治体が暗号資産やNFTを保有できるのかといった点などの自治体固有の論点も生じそうです。今後の法令や制度の改正、または政府による方針や見解の公表が行われることにも期待したいですね。


CHAPTER
03

メタバースと地方創生・観光産業

殿村

メタバースは、最近様々な分野で活用が進んでいますが、地方創生・観光産業という場面での活用にはどのようなものがあるでしょうか。

小松

まず、バーチャル渋谷やバーチャル大阪といった、実在都市をモチーフにした都市連動型メタバースが挙げられるかと思います。仮想空間上でそのバーチャルな都市を訪れ、様々な体験をして楽しむことで、今度は現実世界の都市への来訪を促す試みがみられます。

小泉

正確にはメタバースではないですが、デジタルツインの取組みは国、地方自治体において盛んになっています。国交省のPLATEAU(プラトー)のほか、東京都デジタルツイン実現プロジェクトやVIRTUAL SHIZUOKAなどがあり、分析・シミュレーションに用いて行政における課題解決に活かしたり、3Dデータを一般に公開することで民間での活用を促したりしています。

清水

民間の観光ビジネスという観点では、世界の様々な都市や絶景スポットを3Dモデルで再現し、VRゴーグル等を通じて旅行体験を提供する試みが進んでいるようです。都市やスポットの訪問のみならず、ショッピング空間も併設され、家族や友人と一緒に買い物やイベントを楽しむことも企画されており、現実の旅行体験により近い体験をメタバース上で行うことができそうですね。

殿村

ありがとうございます。様々な形でメタバースの活用が進んでいることがよく分かりますね。
これらの取組みにおいて、法的な検討課題はどのようなものがあるでしょうか。

小松

これらの取組みに共通するのは、現実世界の空間を仮想空間上に再現するという点です。都市の街並みは、建物や屋外アート作品など様々な物体から構成されています。それらの構成要素を仮想空間上で再現する行為が、著作権、商標権、意匠権といった知的財産権を侵害しないか、さらには不正競争防止法に違反しないか、といった点の検討が必要になります。観光名所には、知的財産権や文化財としての保護の対象となる建物やアート作品が多い傾向にあるので、特に留意が必要です。

小泉

不正競争防止法については、現実世界に存在する商品の形態を仮想空間上で模倣し提供する行為も不正競争行為に該当することを明確化すべく、改正法が成立しましたね。メタバースビジネスの拡大を後押しすることを意識した動きとして注目されます。

殿村

その他に、特に観光産業におけるメタバースの利用という観点から、注意すべき事項はあるでしょうか。

小松

観光名所の仮想空間を再現しようとする場合、再現のために現実世界の観光名所を撮影することがありますが、その際にその観光名所に来ている観光客の方々の肖像が取り込まれ、これが肖像権などを侵害しないかという点の検討が必要になるかと思います。

殿村

ごく最近、内閣府の知的財産権戦略本部から「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点整理」が公表されました※2。この中でも、今ご紹介いただいた事項が検討されているのでしょうか。

小松

論点整理は、主に4つの検討事項、「現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等について」、「アバターの肖像等に関する取扱い」、「仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為をめぐるルール形成、規制措置等について」、そして「国際裁判管轄・準拠法について」から構成されています。そのうち検討事項1の「現実空間と仮想空間を交錯する知財利用や仮想オブジェクトのデザイン等について」において「現実環境の外観の仮想空間における再現」が、検討事項2の「アバターの肖像等に関する取扱いについて」において「実在の人物の肖像の写り込み」が検討されています※3

清水

web3もそうですが、メタバースに関する検討は政府でも積極的に進められており、動きが早くキャッチアップが大変ですよね。この論点整理では、NFT等を活用した仮想オブジェクトの二次流通に関し、利用条件やロイヤリティ支払いに関する検討も行われており、取り扱う対象範囲が広く、メタバースに隣接するビジネスを取扱う事業者の方々も注意する必要がありそうです。

殿村

キャッチアップが大変な分野であるからこそ、我々も日々欠かさず研究を進め、クライアントの皆様に最新の動向をお伝えできるようにしないといけませんね。


CHAPTER
04

おわりに

殿村

今回は、地方創生・観光産業をテーマに議論してきましたが、web3・メタバースの活用場面が様々に存在することがよく分かりましたね。今回議論に出てきた資金決済法や金融商品取引法といったFinTech分野は、ガイドラインやパブリックコメントに対する回答を含めてアップデートが頻繁になされる分野であり、検討にあたっては、最新の情報を踏まえてストラクチャリングをする必要がある点にも注意が必要です。また、DAOについては法整備の議論があり、メタバースについても法的課題の論点整理が進む等、最新の動向にも目を向ける必要がありますね。
我々の事務所では、web3・メタバース法務に積極的に取り組んでおり、様々な分野の弁護士が協働して日々情報をアップデートしています。今日の参加者もそのメンバーであり、これからも継続的に情報発信していきたいと思います。

脚注

※1
https://www.mlit.go.jp/kankocho/iinkai/kanko_dx.html

※2
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/metaverse/pdf/ronten_seiri.pdf
「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点整理」については、テクノロジー法ニュースレターNo.36「<XR/メタバース Update>『メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点整理』の公表」(2023年6月)もご参照ください。

※3
「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点整理」検討事項1 課題1-3、検討事項2 課題1-1

本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。

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